制作中

このプロジェクトはまだ設計図の作成途中です。内容は今後変わりうる仮定・未解決部分を含みます。

MOD-04

食料・農業

何を解決したいのか

毎日、同じことを繰り返しています。

朝起きて、スーパーかコンビニで食料を買う。帰ってきて、家計簿に一行だけ書き込む。

この繰り返しは、他の支出より重く効いています。

住居は月極で、家賃を払えば入居できます。賃料が多少上がっても、家賃分だけ用意すれば足ります。

食金は違います。払うたびに、その都度全額、出さなければなりません。

だから 新社会が食料・農業の制度で最初に解決したいのは、一つのことです。

所得が止まったときにも、「食べる」を続けていける状態を、どの程度まで用意できるか。

食料の問題は、住居の問題と形が違います。

住居は「戸数が足りているか」を問えばよい。数字が答えを返してくれます。

食料は「買えるか」を問いたくなる。スーパーに行けば買える。買えている。

でも「買える」と「食べていける」は、別の数字です。

2025年、二人以上の世帯の平均的な支出の中で、食料が占めた割合は28.6%でした。月平均94,895円です(出典1)。

同じ調査で、消費支出に占める食料の割合(エンゲル係数)は、世帯年収で下位20%の世帯では33.1%に達しています(出典2)。

家計の3分の1を食料が占める世帯が、確実に存在します。

エンゲル係数は、所得が増えれば下がる傾向のある指標です。だから「高ければ当然、暮らしが苦しい」とは直結しません。

ただ、この10年の動きは明確です。2005年に22.9%を底に上昇に転じ、2022年以降はさらに急上昇しました。2025年の28.6%は、1981年以来44年ぶりの水準です(出典1、3)。

他の費目は「何が残るか」を計算できます。残余を他へ回せます。

食料は「食べていけるか」だけの問題になります。削る選択肢がほとんど残されていない。 これが、食料だけにある重さです。

現在の社会ではどうなっているか

ここからは事実の話です。出典を明示します。数字と、その数字が何を意味しているかを分けて書きます。

自給率は37%で、過去最低に並ぶ水準になった

農林水産省は2026年8月7日、令和7年度(2025年度)の食料自給率を公表しました。

  • 供給熱量(カロリー)ベース 総合食料自給率 37%(小数点以下では37.11%。前年度の確定値38.16%から1.05ポイント低下)
  • 生産額ベース 総合食料自給率 66%(前年度比+2ポイント。3年連続の上昇)
  • 摂取熱量ベース 食料自給率 45%(前年度比−1ポイント)

出典:農林水産省『令和7年度食料自給率を公表します』(2026年8月7日公表、8月18日差替え)

https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/260807.html

37%は過去最低に並ぶ水準です。37%を記録したのは平成5年、平成30年、令和2年に次いで4度目でした。

直近10年の推移を並べると、38、38、37、38、37、38、38、38、38、37。

この10年のあいだに、改善は起きていません。 38%前後の横ばいが続き、4度目の低点となりました。

37%と66%と45%は、同じ「自給率」の別の顔です

同じ年を3つの数字で報告するのは、「自給率」が一つの実名を指していないからです。

  • カロリーベースの37%は、「国内で生産された熱量が、必要な熱量にどれだけ当たるか」を見ています。
  • 生産額ベースの66%は、「金額で見たら、国産がどれだけ占めるか」を見ています。
  • 摂取熱量ベースの45%は、「平時の1人が1日食べるべき熱量のうち、国産で賄える割合」を見ています。

37%と66%は、29ポイント離れています。

その差の主な理由は、米や卵などの価格上昇です。 令和7年度は米の国内価格が前年から48%上昇し、鶏卵の価格は26%上がりました(出典4)。

この数字を押し上げたのは価格の方です。生産された食料の量が増えたわけではありません。

金額的自給率が上がったことと、供給できる食料の量が増えたことは、別の事実です。

自給率を縛っているのは、米でも野菜でもなく、飼料です

令和7年度の飼料自給率は 24%(前年度比−2ポイント)。約4分の3が輸入に依存しています(出典4、10)。

これが、同じ年で生まれる差です。

| 品目 | カロリー自給率 | 食料国産率 |

|---|---|---|

| 鶏卵 | 11% | 97% |

| 鶏肉 | 7% | 65% |

| 豚肉 | 5% | 49% |

| 牛肉 | 13% | 50% |

| 畜産物全体 | 17% | 66% |

スーパーで売っている卵は、97%が「国産」です。でも「自給率」は11%です。

「国産率」は国内で生産されたかどうか。「自給率」は、輸入飼料の分を差し引いた量。定義はその通りです。

卵を産む鶏は、日本の鶏舎にいます。けれどその鶏が食べる穀物は、海外の畑で育ったものです。

その他の品目も、同じように断 됩니다(出典4、10)。

  • 小麦 16%(前年度並み)
  • 食用大豆 24%(+1ポイント)
  • 油脂類 4%
  • 魚介類 46%
  • 野菜 77%(−1ポイント)
  • 米 95%(−2ポイント。直近10年で最も低い)

米は主な国産熱量源ですが、消費量は減り続けています。

自給率を左右しているのは、飼料と、小麦・大豆・油脂です。

1,850kcalという数字の意味

摂取熱量ベースの指標が示しているのは、「1人1日当たり1,850kcal」です。

この値は、2025年4月11日閣議決定の食料・農業・農村基本計画が新たに採用したものです。1,850kcalは、日本人成人男性の基礎代謝量(1,300〜1,600kcal程度)を上回り、国民健康・栄養調査における平時の1人1日平均摂取熱量の最低値(2010年で1,849kcal)を参考に設定されました(出典5)。

これは「1人が1日にどれだけの熱量を受ければ生きられるか」の、平均値です。

所得の線ではありません。年齢の線でも、体格の線でもありません。

同じ1,850kcalという目標でも、支出できる額が違えば、達成できる食事の中身はまったく違います。

「熱量の基準」と「生活の基準」は、別問題です。

農地面積は、減る方針で決まっています

同じ基本計画が、2030年度の農地面積目標を 412万ha と定めました。2024年は427万haです(出典5)。

15万ha、減る方向です。

「食料自給率の向上」と「農地面積の減少」が、同じ計画の中に並んでいます。

自給率45%(供給熱量ベース)の目標と、耕地利用率101%の見通し。延べ作付面積を414万haと置いた数字です(出典5)。

※仮定:耕地利用率はすでに100%を超える水準にあります。「もっと作ろう」の選択肢は、どこかの経営体を大きくするか、どこかの田を転用するかでしか埋まりません。基本計画自身が農地面積を減らす方向で目標を立てている以上、面積で解ける問いは、残っている余地が小さい。「まだ面積がある」という前提で設計するのは、誤りです。

輸入額は13.8兆円

2025年の日本の農林水産物・食品の輸入額は 13兆8,143億円(前年比3.0%増)。2006年以降で過去最高です。

うち農産物が9兆5,479億円、水産物が2兆669億円、林産物が1兆7,983億円。

輸出は1兆5,973億円、輸入超過は12兆2,169億円でした(出典6)。

自給率37%に対して、輸入は13.8兆円。1人あたり年に約210万円です。

この額は原料の輸入額であり、「すでに調理された食品」の額ではありません。餐桌が受け取るのは、加工と流通の費用を上乗せした金額です。

農業従事者は、50年で5分の1

2025年農林業センサス(令和7年2月1日現在。2026年3月31日公表の確定値)によると、個人経営体の基幹的農業従事者は 103万6千人でした。

  • 5年前より32万7千人(24.0%)減少
  • 平均年齢 67.7歳
  • 65歳以上が 69.6%、70歳以上だけで 55.2%
  • 49歳以下は 12.6%
  • 最も多い年齢層は70〜74歳(全体の21.0%)

出典:農林水産省『「2025年農林業センサス結果の概要(確定値)」の公表について』

https://www.maff.go.jp/j/press/tokei/census/260331.html

2000年の240万人から2025年の103.6万人へ。25年で56.8%減です。

1975年の489万人からなら、50年で約5分の1です。

同じセンサスで、農業経営体は83.6万経営体(5年前比22.3%減)、うち法人経営体は3万4千経営体(同10.1%増)。

1経営体当たりの経営耕地面積は3.6haで、20ha以上の経営体が耕地面積の約半分を占めています。

小さな経営体が残らなくなった、という説明で片づけてはいけません。

小さな経営体が減った理由が「効率がよくなかったから」だとすると、その効率の基準がどこにあるのかを問う必要があります。

効率と、地域社会としての持続可能性。水路の管理、集落の機能、農作業の継続。

これらは同じ枠組みに収まりません。大きな経営体が増えたことで地域の機能が維持されるなら、効率の話とは別の問題です。

見えにくい負担は何か

「安い」という判断の中の、隠れた費用

日本の食料が国際的に見て極端に安いわけではありません。90年わたって輸入体制の枠組みを築いてきたからです。関税、輸入規制、国内で生産されない品目の輸入枠。

手続きと交渉のコストは、輸入しない側にはかかっていません。

「安い食料」は、国際貿易の枠組みと、国内では採れない品目を輸入に回せることに支えられています。

※これは「安いことにコストがない」という意味ではありません。国ごとの価格差は実在します。

言いたいのは、その安さの裏側に何があるかが、価格そのもののなかに表示されていない構造だということです。安い数字だけが、家庭に届く。

農作業の、時間の費用

農地を維持し続けることは、継続的な費用です。

田んぼの管理、水路の管理、畔の草刈り、用水路の整備、病害虫の防除、耕作条件の管理。機械が動く作業の合間に、手作業が入りこみます。

この時間の多くは、家計にも農家の収入にも現れません。

支出にも入らない。自分の時間を、無償で差し出していることに、気づいていない。

農業所得のばらつき

簿記データを集計した試算では、2025年の世帯農業所得の中央値は 565万円でした。2024年は468万円、2023年は395万円と、3年連続で伸びています(出典7)。

内訳を見ると、普通作経営(稲作など)の中央値は1,018万円で、前年の614万円から400万円以上伸びています。

同じ制度の中で、ある経営には大きくプラスが働きました。

ただし、この数字をそのまま「農家の平均所得」として使ってはいけません。

集計対象は青色申告の個人農家20,292件です。簿記を続ける農家は、営農を継続できている層に寄ったサンプルです。全国ベースの行政統計は別の指標で、2024年の生産農業所得は3兆9,649億円と推計されています(出典8)。これは推計であり、平均的な農家像をそのまま示すものではありません。

数字の種類が違えば、意味も違います。この混同を避けて所得の話をすることが、原則6です。

食料の、届いている距離

「買えるか」を考えると、スーパーがある町は買えます。

けれど「安いものを買えるか」と考えると、商店が数軒しかなく、品揃えが県庁所在地と違う町は、普通にあり得ます。

同じ「自給率37%」の国の中で、物理的に食料が届かない場所が、普通に存在します。

政府はこの点を制度に書き込んでいます。食料・農業・農村基本計画は、2023年度で55%だった「経済的な食品アクセスの確保に取り組む市町村割合」を2030年度に80%へ引き上げることを目標に、フードバンクの食品取扱量を15,755tから28,000tへ増やすことを掲げています(出典5、9)。

「食料のアクセス」が価格の話だけだとしたら、「そもそも届いていない」という、静かな側を忘れることになります。 価格だけで解けるのは、アクセスの一部地区だけです。

誰が負担しているか

原則2に沿って、負担を「誰が負っているか」で分けます。どれも受益者側の都合ではありません。

  • 消費者:食料費の増加。2025年の食料費は名目で5.5%伸びましたが、実質では1.2%減りました(出典1)。理論上は「高くなった」、実質は「少なく食べるようになった」という構図です。 所得によってつらさが違う。年収下位20%の世帯は、食料が支出の33.1%を占めています。
  • 農家:収入の振れ幅。2025年、米の国内価格が48%上がり、稲作経営の世帯農業所得の中央値は614万円から1,018万円に跳ねました(出典4、7)。同じ制度の中で、ある農家には大きくプラスに働いた。 同じ年に、大規模化できない経営にはマイナスとして働きました。
  • 輸入相手国:日本の輸入量の変動。為替、物流の停滞、干ばつ、台風、感染症。

日本の食料自給率が低いことは、相手国の生産者にも影響する。 この計算は、相手国側からは見にくい。

  • 納税者:農業補助、備蓄の維持、輸入の便宜、直接の補償。

「食料は安いまま」という受益を、公共資金が一部支えている構造は、隠さず書いておく必要があります。「安いから買えている」を全部・農家の努力で説明するには、届きません。

  • 未来の世代:環境負荷(土壌、地下水、気候)、輸入先との関係。

そのコストを正確な金額に換算することはできません。「見えないからゼロ」ではない、という事実だけを書きます。

  • 買えない側:所得の低い人、買い物に時間がかかる人、食料が届かない土地の人。

制度上は最も弱い立場です。そして、この層は数字の中に整理されにくい。

「見えにくい負担」というものは、たいてい長期にまたがります。 今の支出の中で、将来のコストが先に立てられています。今の支出の中で将来の設計をしているものを、誰かが今、払っている。

現在の制度のメリット

「現行制度はすべて悪い」ではありません。現在の制度には、はっきりとした経緯があります。

1. 自給率が低くても、食べるものは届いている。

37%は「食べられる食料の37%しかない」という意味ではない。輸入の経路には貿易の枠組みと国家備蓄があります。

2. 安い食料を安定的に取得できる。

大規模な輸入と流通の基盤。効率追求の結果、家庭の食料費は、農業より構造的に抑えられています。

3. 複数の供給源が想定されている。

米国一国ではありません。

4. 食料産業は、雇用の受け皿になっている。

農業、食品加工、輸送、小売。この基盤がないと、雇用の受け皿自体が消えます。

5. 自給率に「目標」が設定された。

2025年4月の基本計画は、2030年度の目標として、供給熱量ベースの総合食料自給率45%(2023年度実績38%)、摂取熱量ベース53%(同45%)、飼料自給率28%(同27%)、供給熱量ベースの食料国産率54%(同47%)を掲げました(出典5)。

「自給率は自然に上がる」のではなく、「上げるために取組む」と定義したことは、大きい進展です。少なくとも目標があり、達成状況を毎年公表することになっています。

6. 食料困窮が、制度の名前付きで残された。

2025年の基本計画は「国民一人一人の食料安全保障」を新しい柱の1つとして立て、フードバンクや市町村の枠を作りました。制度がないわけではありません。

現行制度が「何もしない」わけではありません。行った努力が、全部の層には届いていない。

これが、この節の結論です。

現在の制度の問題点

① 10年後に誰が作るのか

103.6万人、平均67.7歳、70歳以上55.2%。5年で32.7万人減りました。

65歳以上の割合は、2015年64.9%→2020年69.6%→2025年69.6%と、最近5年はほぼ横ばいです。

これは「高齢化の進行が止まった」ことを意味しません。母数が半減しているからです。 65歳以上の実数自体は、114万人→94.9万人→72.1万人と減少局面に入っています。

減少の単位は「割合」ではなく、「絶対数」です。若い人が入っても、5年で入る人数は減る人数に届きそうにない。

「担い手の育成」が何度も手段として叫ばれ続けても、育成した後の働く先がなければ、育成しても消えます。入口となる新規就農者は年4.3万人で、前回より33%減(出典4)。

② 規模が、少ない人に依存する構造になっている

1経営体3.6ha、20ha以上が耕地面積の約半分。

原則1の考え方で言えば、まず確認すべきは中核の層がどれだけ安定しているかです。支柱となる農家が一人或少人数なら、リスクはそのまま中核に集中します。

小さな経営体が減る一方、機械化と法人化が進んでいます。効率は上がりました。

けれど、中核の層が薄くなるほど、依存は深くなる。効率の達成と、安定は別です。

③ 37%の平均と、買えない人の平均が一致していない

1,850kcalは「1人あたり」の平均線。所得の線でも、体格の線でもありません。

全国平均で1,850kcalが届いていることと、必要な人に1,850kcalが届いていることは、別の事実です。 1,850kcalの「内訳」は、人によってまったく違います。

同じ1,850kcalでも、安いカロリー源(穀類、雑穀、いも類)で満たせる場合と、高カロリー源(肉、魚、乳製品、油脂)を必要とする場合では、支出が跳ね上がります。

「熱量で満たす」だけでは、生活の費用は測れません。 所得、世帯人数、家族構成。すべてが違っているからです。

④ 「安い」の判断基準が、家計の側に置かれている

スーパーに行けば「安い」と感じられます。

けれどその原価に、輸入の手続き、輸送の費用、自然環境の負荷が含まれているかどうかは、スーパーの値札には表示されません。

「安いから買う」は、一つの十分な選択としては正当です。 ただし「安いから買う」だけがすべての選択肢だとしたら、それは別の設計を暗黙に守っていることになります。

新社会としては、この基準そのものを書きます。「安い」の中に何が含まれるのかを。

⑤ 統計の粗さと、現場のずれ

「自給率37%」は集計値です。輸入飼料を差し引いた方式で計算されています。

この37%は「その人がどれだけのものを食べられるか」を、一国平均で当てはめた値です。

37%だけでは、以下のどれにも答えられません。

  • 量は足りているのか
  • もし交通が断たれたら、どれだけ持つか
  • 所得の低い人には届くのか
  • 「食べない」を選ぶ人の事情を、数字は拾えているか

「自給率」は一つの指標で、食料の状態の全部ではありません。 それを「自給率の数字だけで判断する」こと自体が、問題です。

別の設計案

「唯一の正解」を出して終わることには、案を出す必要があります。3つ挙げます。どれも長所があり、どれも副作用があります。

案A自給率を上げる(生産を国内に寄せる)

2030年度までに供給熱量ベースの食料自給率を45%まで引き上げる、と決めたことを実行します。麦・大豆・飼料穀物の国内生産を増やします。

主な内容

  • 麦・大豆の作付拡大、転作地の集積
  • 飼料穀物の国内生産増(特に牧草飼料)
  • 経営体間の安全網強化、集約化支援
  • 政府財源による生産者給付の充実

長所:外部の不確実性を減らせます。食料を輸入に依存する割合を減らせる。農家所得の安定化。

誰が負担するか:生産費助成(肥料、燃油、資材)、農地の再編、農業用水の整備。

その次は消費者です。 生産者ではないコストは、最後は家庭に転嫁されます。

※仮定:仮に耕地利用率が101%まで上昇したとして、それで実際に45%に届くかは、このページでは検証していません。基本計画のKPIでも耕地利用率101%は「見通し」です。農地面積目標は412万haで、減る方向である点を、あわせて押さえておきたい(出典5)。

案B輸入依存を維持しながら、変動に耐える

自給率そのものを目標に掲げず、輸入の構成を軸に「緊急時の食料」だけを基盤にする。

主な内容

  • 備蓄(政府・企業)の具体的な目標設定
  • 輸入相手国分散の測定化
  • 契約の結び替え(長期買い付け契約)の制度化
  • 代替品への切り替え(小麦→米、小麦粉→米粉など)の普及ルートの整備
  • 食料供給マップの精査と、実効性の向上

長所:平時のコストは安い。自給率が大きく上がらなくても、危機時に動ける。説明可能な設計になります。

誰が負担するか:備蓄の維持費、情報収集の行政コスト。貯蔵倉庫は使われないと機能しません。

「必要な条件」:輸入の構成が変わると、輸入先が変わります。そのとき「農地を付け替える」だけでは足りません。

案C機械化・自動化で労働力不足を補う

焦点を「新しい人を呼び込む」から、「1人がより多くを扱えるようにする」へ移す。

主な内容

  • スマート農業導入補助の拡大
  • AI・ロボットによる省力化作業(播種、収穫、除草)
  • 営農のソフトウェア化:経営の共同化、営農ギロの共有、単一管理への移行
  • 耐病性品種の育種、種子と栽培技術の開発

長所:都市部の若年層が、農業経験なしでも作業に参加できます。「生産を一人で全部やるのは夢ではない」と、言える。 実際に農業の現場で負担が大きい作業から解放される可能性があります。

誰が負担するか:機械代と保守費用。農家の自己負担が基本になります。

別の設計案の副作用

原則5。別の案には、別の問題が生まれます。

案Aの副作用

  • 費用は最終的に消費者が担います。 国産米や国産野菜が高い分だけ、安い輸入には戻れません。家計の選択肢が狭まります。
  • 水と土地の制約。 耕地利用率はすでに100%に張りついています(出典5)。これ以上広げる手段は、水の確保と耕作条件の維持でしかありません。
  • 農地価格の高騰。 需要が増えて農地が値上がりすると、就農の敷居が上がります。新規就農者が入る力はなくなります。これは「担い手の育成」と真逆の方向に働きます。
  • 国際的には、輸入を減らせという方向の圧力が増す。 自給率が上がると、相手国からの貿易条件が変動します。自給率を上げる政策と、貿易関係を良好に保つことは、別の交渉です。
  • 安い輸入による「安い」が失われる。 自給率が上がった分だけ、家庭の負担が減る保証はありません。生産量と支出は別です。

案Bの副作用

  • 目標値は定まるが、総量は変えない。 30日備蓄を確保しても、1年分の丸ごとの問題は解決しません。
  • 輸入先の分散は、相手国側の利害に左右される。 貿易摩擦や制裁、報復制裁が起きれば、関係の形が変質しうる。
  • 代替食材への切り替えは、健康上と調理上で別のコストを伴います。 米粉の栄養プロファイルやアレルゲンは、小麦とは違います。これは主たる対策ではなく、次善の策です。
  • 次のショックまでは平気です。「備蓄があるなら大丈夫」は、輸入の航路が途中で切れると成立しません。
  • 財政負担が「倉庫維持」に固定される。 一度やると毎年続かないと破れます。

案Cの副作用

  • 購入費用だけでなく、保守費と整備の人手が毎年続きます。 省ける労力はありますが、費用は続きます。差し引きが合うとは限りません。
  • 小さな農家がさらに厳しくなります。 機械は規模と費用対効果で選びます。導入できる大規模経営ほど有利になり、小規模経営ほど不利になります。10ha規模では、機械の運転時間が省ける手作業の時間より長くなることもあります。
  • 技術供給への依存と、管理권을失うリスク。 メーカーが撤退したり、部品の供給が途切れたり、修正費用が上がったり。農業機械化は、供給元を固定する構造を受け入れます。
  • 雇用が減る方向にも動く。 農作業が減れば、雇用としての入口が減る。これから入ろうとする人にとっては、雇用の入口がなくなることになる。

3案に共通の副作用(ここが本質)

どの案でも、食料価格が高くなる時に、家族の負担が増えます。

根本的な問題はここです。輸入が安ければ、家計は助かります。でも農業は縮小します。

輸入が高ければ、家計は厳しくなります。農業,却也助かるとは限りません。

「自給率を上げる」と「輸入を安いまま維持する」の二択ではありません。

設計として問うべきなのは、平時の価格上昇に耐えられるか、異常時に持つか。

この2つは別の設計です。

提案新社会ではどう設計するか

原則1から7のうち、関係するものに照らして書きます。

原則1(いちばん厳しい人を基準にする)

基準を平均の熱量にしません。所得が止まった人の、最低の食料費に置きます。

同じ1,850kcalでも、支出できる額が違えば、達成できる食事の中身はまったく違います。

だから新社会では、食料の標準を所得に応じて分けます。

案A(自給率向上)の場合、所得に応じて食料費の国家标准を分ける設計。

案B(輸入リスク分散)の場合、「破約しても破綻しない範囲」の食料確保を、長期確実に埋める設計。

原則2(負担は、必ず誰かにかかる)

どの案でも、`消費者(食料価格)`/`纳税人(補助金・備蓄)`/`農家(所得変動)`/`相手国(貿易条件)`のすべてを明示します。

その負担が長期に続く だという点も、書きます。

全部を「今の受益者」に押しつけて、未来の消費者に。作者は何も言わない。

原則3(現在と未来を共に失わない)

自給率向上は、「未来のために今を耐える」になる可能性があります。

同時に増えるものもあります。「自給率が上がっても、高額な技術導入で費用が上がれば、家庭の負担は増えます。」

環境負荷と輸入コストを、同時に下げる方向だけ。片方だけの改善は、改善ではありません。

原則4(一つの制度は他とつながっている)

送料上がる→家計の食料費が上がる→低所得世帯の負担が重くなる→財政の給付需要が上がる→税金か国債か。

最後には、互いに依存してつながっています。

実装案:安価な食料(米粉、雑穀、乾物)への支援。所得制限の範囲は、この設計の前提として置きます。

原則6(事実と、わからないことを混ぜない)

現実は「自給率37%」「農家数103.6万人」「エンゲル係数28.6%」として出典を明記。

仮定(『仮に○○円/km で集めるなら…』)は、そう書き記す。

新社会としての判断(『私たちはこう考える』)は意見として書く。

三つ、分けます。

原則7(唯一の正解を作らない)

3案は並置します。推奨案はひとつだけ示します。「A案の要素を、B案の骨格に、C案の投資で補強する」程度の一例として。

他の制度への影響

お金と生活(食料価格の家計負担)

制度の中で、いちばん強く接続する関係です。

食料は、家計支出の中で26〜28%を占める唯一の大費目です(出典1)。

しかもその上昇率は、全体の物価上昇率を上回ります。

家計の状況が悪くなると、最初に削られる費目。ここが、食料の位置です。

※仮定(数値例):月4.8万円の食料費なら、家計全体の1%上昇で約480円、月額1,000円の負担増なら約8,300円。

低所得層では、食料が支出の33.1%を占めています(出典2)。上昇の負担が重いのは、所得の低い層です。

注意:食料費は「自由に選べる支出」ではありません。同じ金額でも、必需品と余白では意味が違います。この設計で扱うのは、金額より前にある「選べるかどうか」です。

働くとは何か

農業は「自立した仕事」です。けれど人口減少により、就農者は減り続けています。

平均年齢67.7歳、新規就農者は年4.3万人。

農業への新規参入が「別の働き方を意味する」なら、その輪郭は「働く」の意味を書き換えます。

社会保障

社会保障は、世帯が安定した収入があると前提に組まれています。食料の問題は、その前提の外側で起こります。

雇用されないこと、所得が低いこと自体が、生活の選択肢を狭めます。

食料の設計が変わると、社会保障の話の前提が変わります。

AIと仕事

案C(機械化)は、AIと仕事のページと直接つながります。農作業の種別を数えると、「農作業に必要な人」は減ります。

雇用への効果は、雇用の分断として現れます。農作業が減ると、入口となる仕事も減ります。

未解決問題

まだ答えが出ていないことを、隠さず書いておきます。

確認できていない事実

  • 政府備蓄と企業備蓄をあわせて何日分あるか。 内訳を分けた数字は、このページでは確認できていません。
  • 農家1戸当たりの所得を、公的統計で一つに代表させる方法があるか。 生産農業所得統計は全国推計、簿記集計は青色申告層に寄ったサンプル。この2つをつなぐ資料を、この手元では確認できていません。
  • 農業補助の総額と内訳(生産者直接支払、輸入振興、農業金融、価格安定機能など)。
  • 1,850kcalを満たす一番安い食事のコスト。 設計にはこの数字が必要ですが、このページでは未確認です。
  • 所得を基準にした食料支援が、現行制度の中でどこまで設置されているか。

新社会として解けていない設計判断

1. 自給率を「生産目標」とするか、「危機時の緩衝材」としてのみ扱うか

2. 「食料費保障」を所得制限で再分配するか、「最低限の食料」を現物配給で配るか

3. 農業に投入する公共のお金を、「自給率のため」に区分するか、「生活補償」の枠に置くか

4. 農地の転用(宅地化、再生可能エネルギー施設)の抑制基準を、どこで切るか

5. 国外の食料確保を、国内生産の目標から切り離すか

6. 農家の高齢化に対して、「規模を拡大する」か「小さな経営の集合体支援」か、両者の比率

政策の現実性に関する留保

この設計は、現実にそのまま当てはめられません。

現実には、すでに輸入、価格、関税、既存の補助が組まれています。

国際交渉と企業間の契約は、すでに結ばれています。特別枠を作ること自体が、国外からの反応を呼ぶ。

「設計図と攻撃は違う」という言い方で済ませてはいけません。 けれど、不合理で終わらせるくらいなら、修正して成立させることを選びます。

関連ページ


出典

1. 総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』(2026年2月6日公表)

https://www.stat.go.jp/data/kakei/2025np/pdf/summary.pdf

2. 朝日新聞『「エンゲル係数」44年ぶりの高水準 コメなど「食料インフレ」影響』(2026年2月6日)

https://www.asahi.com/articles/ASV260FRTV26ULFA005M.html

3. TBS NEWS DIG『食費の割合を示す「エンゲル係数」28.6% 1981年以来、44年ぶりの高水準に』(2026年2月6日)

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2450821

4. 農林水産省『令和7年度食料自給率を公表します』(2026年8月7日公表、8月18日差替え)

https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/260807.html

5. 農林水産省『食料・農業・農村基本計画』(2025年4月11日閣議決定)

https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/

6. 農林水産省『農林水産物輸出入概況』(2025年、財務省貿易統計確々報)

https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_boeki_tokei/

7. 農業利益創造研究所『2023~2025年の農業の推移を経営ベクトルで分析する』(木下徹、2026年7月6日)

https://nougyorieki-lab.or.jp/management/15927/

8. 農林水産省『令和6年農業総産出額及び生産農業所得(全国)』(確報、2026年3月25日公表)

https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/seisan_shotoku/r6_zenkoku/index.html

9. 内閣府『今週の指標 No.1425』(2026年9月2日)

https://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2026/0902/1425.pdf

10. 農林水産省『日本の食料自給率』(品目別自給率・飼料自給率の算定方法)

https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html